本のむしの読書日記

本から得た感動をひとりごとのようにゆるく綴っていきたいと思います。

「烏に単は似合わない」華やかな王宮ものというだけではなく…

 

 記念すべき一回目の投稿はこの作品から!

「烏に単は似合わない」

作者 阿部智里

八咫烏シリーズ一作目

 

 

 

ざっくりあらすじ

 八咫烏の住む世界「山内」。そのトップに君臨する宗家一族の世継ぎ「若宮」の后選びが始まった。東西南北の四つの貴族の家の主たちは、それぞれの思惑をもとに娘を遣わす。四者四様に美しい姫たちは「桜花宮」で暮らしながら若宮に選ばれるために競うのだが…

 

 

 

感想(ネタばれ含みます)

 一番は何といってもこの期待を裏切られた感!もちろんいい意味でです。帯に「黒幕は誰だ?」と書かれていたのを完全に見落としていました。純粋にきらびやかな王朝恋愛ものだと思って読んでいたのですが、途中から雰囲気が変わり、加速していくミステリー的展開にやや戸惑いながら読み進めました。巻末の解説の東えりかさんの「この物語ほど、最初に頭に描いた世界観と読み終わったときの印象が違う作品も少ないのではないか」ということばに、思わず大きく頷いてしまいました。

 

 序章では、若宮と東家の姫「あせび」の子供時代の運命的な出会いが描かれます。

 そして本編、あせびの行動に沿ってストーリーが展開され、あせびの心中表現も多く記述されています。

 読者はあせびに寄り添うようにして桜花宮での出来事を体験していき、あせびの横で他の姫や女房たちを見ている感覚になります。私は少々あせびが后に選ばれることを期待して読んでいました。

 しかし、物語を最後まで読むと、このあせびの人物像が180度変わってしまうのです。変わってしまうというか、本性の見えない他の人物と違い、あせびのことはわかっているものとして読んでいたのが、実は一番わかっていなかったという感じでしょうか。序盤からいたるところに張られていた伏線に納得したり驚いたり…

 私が買ったものは新カバー版で、初版とは違い、表紙絵にあせびの顔が描かれていたのですが、読む前と読んだ後ではその静謐な表情からまったく違う思いを掻き立てられました。

 

 そんなしてやられた、予想を上回られた感が第一ですが、やはり宮廷が舞台の作品。四季折々の風景描写や、各場面での姫たちの装いの描写は緻密で、その様を思い浮かべるだけで胸が躍ります。最初に期待した世界観も十分に楽しませてくれるのです。

 

雑談

 この物語を最初に知ったとき、私は中学生でした。気になりはしたものの、その時はなんとなく敬遠して読まずに終わりました。今、こうして手に取り、無事読了したのは、高校での古典学習を通して、昔の慣習などを知り、古典世界へのハードルが少し下がったからかなと思います。八咫烏の世界には、昔の慣習やしきたりが取り入れられているので、その知識があるとより理解しやすいのかなと思いました。

 

 

 まだ語り足りないのですが、今回はここら辺で締めくくりたいと思います。春夏秋冬すべてが美麗な八咫烏の世界でひそかに進行するミステリー、読後必ず読み返したくなる「烏に単は似合わない」、ぜひ読んでみて下さい。

烏に単は似合わない【新カバー版】 (文春文庫)